
刃折れ矢尽きる手前だった。真面目にコツコツと貯金し、自炊し酒も煙草もしなかった大輔が…小竹を信じ、集金の使い込みの穴埋めから始まった騒動で小竹の行方を探すミイラ取りがミイラになりかけているという表現がふさわしい状況だった。
この晩に、多鶴子から小竹の居場所を聞けなければこれで多鶴子のいるスナックには二度と行かずに、小竹の行方もこれ以上探すことなく、また真面目に一から仕事に取り組もう!…そう決めていた大輔。
その晩、いつも通りのソファー席に通され、いつも通り定例だったキープしているボトルもいつしか3Mといわれる焼酎の1つ村尾というもので70000円のものを入れるようになっていた。
「もう…ここにはこれないんだ…」帰り間際のロンリーチャップリンが流れる店内で例のごとく酩酊した大輔が多鶴子に告げた。
「今日って…朝刊ないのよね?…明日も休みだったっけ?」多鶴子が尋ねた。
「そうだけど…なぜ?」
「もし、よかったら…うちでこのあと飲み直さない?」多鶴子が大輔をアフターに誘った。
いままでベールに包まれた多鶴子のプライベートな領域に片足をいれつつある大輔は、もしかしたらそこで小竹について聞けるかもという本来の目的を成し遂げようとする真面目な思惑と、男が女を求める野蛮な煩悩の二極の大輔自身が跋扈していた。
「どうする?」
多鶴子がまた頭を大輔に預けて猫撫で声でねだってきた。
