
押入れに滑り込むように入り込み小竹の登場を待った大輔。しばらくして玄関から多鶴子の肩に手を回した小竹が現れた…女性の部屋にくるというのに以前働いていた臨配センターから支給されるウィンドウブレイカーを羽織っている。普段、あまり他人に対して憎悪の感情を持つほど心に歪みがない大輔だがこの時ばかりはハラワタが煮えくりかえっていた。
小竹は大輔が押入れに隠れているとも知らず、いつも多鶴子にするように肩に手を回し、顔を近づけてキスをしようとしたりといささか恋人気分でしばらくはいた。しかし、手を払いのけたり、顔を近づける小竹を突き飛ばしたりいつもの様子と違う多鶴子に違和感を覚えたのかすぐになにかを感じ取った。
「なにがどうなってるんだ!!」どんなときも冷静に会話ができない小竹は突然多鶴子に向けて声を荒げ怒号を発した。
「小竹さん…もう今日で会うの辞めましょう…」瞬間に時計の秒針が止まり、部屋の裏にある線路を走る電車の音だけが鳴り響き、しばし静寂につつまれた。小竹は言葉を失った。このやり取りを聞いていた大輔でさえもしばらくただひたすら唾を飲み込むことしかできなかった。