「小竹さん!!」今部屋をでて逃げ切ったと安心している小竹を背後から呼び止めた大輔。大輔は金を借り逃げされそうなものにしては穏やかな口調で小竹に語りかかけた。
小竹はすぐには振り向きもせず、返事をすることもなくしばらくじっと足をとめて呼び止められた場所で立ち止まっていた。しばらくして両手にもっていたコンビニ袋を地面にゆっくりと下ろすと、やれやれといった形相でため息でも漏らさんばかりの表情を浮かべゆっくりと振り返った。振り返る瞬間は、多鶴子はもちろん大輔も一体どの面下げているのだろうか…そんな探りが時を一瞬止めた。
振り向いた小竹の表情は、悪びれる様子は微じんもなくむしろ開き直ったというか不機嫌にすら見える面持ちで落ち着きはらい、目は大輔に温情で助けを乞うた血の通った目ではなく、すでに死んだ魚のような生気のない眼差しで多鶴子と大輔をみつめていた。
「多鶴子…お前…嵌めたのか….俺を…」小竹はその生気のない眼で多鶴子をにらみつけるとそう切り出した。
「嵌めるだなんて!偶然がかさなったのよ…」小竹との縁を切りたかった多鶴子にとって展開は偶然であってもいかようにでも遮ることのできるストーリーではあったので嵌めたといえばはめたし、またその逆でもある展開だった…