
「多鶴子…お前…嵌めたのか….俺を…」
小竹は大輔に見つかってしまった気まずさを感じるよりも身柄を大輔に差し出した首謀者が多鶴子であると疑い、その疑心暗鬼からくる人に裏切られた絶望感の方に支配されているように見えた。
「小竹さん!」大輔は必死に小竹の名前を呼ぶ…がいっこうに小竹は多鶴子に裏切られたという事実で精神がぶっ壊れたのか、自らも大輔の温情を裏切ってきた事実などお構いなしに多鶴子へ一連の真実を問いたださんばかりの形相であった。
そんな小竹もやがて、大輔や多鶴子に対してこれ以上、心と心をピタリと寄り添い付け合わせることへの不毛さを悟ったのか、今日日この状況に至った経緯について聞こうとはしなくなった。
やがてその表情は血液の通わない…冷血な般若とでも言える面持ちで、そしてほくそ笑んでるようにさえ見える冷血な般若がこの後の顛末にいわば何かしらの企みをもって挑もうとしている魂胆みたいなものがみてとれた。
それが大輔と多鶴子の心をざわつかせる何がしであるのは間違いなかった。
