
停め方を横着したあまりに徳俵のバイクは坂下の一軒家に突っ込んでしまった…
「終わった…」徳俵はそう腹をくくり、遅れていた配達ももう諦めよう…この一軒家の住人にことの顛末を説明したあとすぐに販売店に連絡して配達の続きをできる人間を寄越してもらおう…そう覚悟してこのお宅の呼び鈴を押していた。
一体、今現在どのくらいの遅配の連絡がきているのか…一体、このバイクが突っ込んでしまったことでどのくらいの額の弁償をする必要があるのか…一体、飲酒やら茉莉花を連れ出して飲み歩いていたことがバレてしまうのか…徳俵の脳裏にはこの数分間の間にあらゆる事柄が走馬灯のようにめぐり、それはもう生きた心地がしなかった。
そんなことを考えて、2,3度呼び鈴を押して3分ほど玄関先で待っていただろうか…一向に家の住人が出てこない。
人間というのは、あるポイントを堺にもともと正当な振る舞いをするべく動くが、どこかで損得勘定が働き、また正直に動かないことで得をする計算に目処がつく…そして仕上げにインチキを働くことへの自己正当化が脳内で完成してしまうのである…魔が差すとはまさにこの瞬間のことだ。
徳俵は、あまりにものプレッシャーにこのまま何くわぬ顔をして残りの配達を済まして店に戻ってしまおう!なんてことを思い浮かべると同時に小走りにバイクに向かいエンジンを掛け…そこの飛び出していた。