
販売店からの徳俵への発信は19件目に達していた…
徳俵はふと眠りが浅くなった時にスマホを覗く癖があるがこのときばかりは覗かなければよかったと思っていた。にしても見なかったにしてもいま徳俵に起きている事実が変わるわけはもちろんない。
このとき、徳俵の中でもう何が起きていてそれがどのくらいの程度のことなのか重々に自覚できていた…そしていまから自身に起きることの顛末のプレッシャーを考えると、その不在着信に掛け直してしまうことで1分でも早くその地獄の入り口に足を踏み入れるくらいであるならば掛け直すことすらからも逃れ、その苦痛から1分でも長く逃げ延びようと考えるしか打つ手はなくなっていた。
いまだ、着信音があるスマホを完全に無視して徳俵は、ハンガーにかけてあるスエットの販売店ユニホームの上着を羽織り黙々と店に出向く準備をしていた…もちろんこの間もスマホの着信音はなりっぱなしである。
「よし!」徳俵は刑務所に収監させる容疑者の面持ちに似たようなこのあとの不自由が待っていることを覚悟し肝に据えた面持ちで販売店に向かいカブを走らせた。