
カブに乗り、販売店に向かう最中にも徳俵のスマホのバイブが止まることはなかった。この着信は間違いなく所長である山崎の特徴であった。
沸点に達した怒りを鎮める術を持ち合わせていない、まるで彼女を束縛し現在の居所を問うている電話に対して応答しない時に電源落ちるまで掛けまくるメンヘラな彼氏がするそれに酷似しているのが山崎の特徴だ。
徳俵のなかでいよいよただ事では済まない…いってしまえば自分のイスもそこにはもうないことぐらいはとっくに覚悟していた。
いよいよ谷を超え、目前には販売店が掲げる看板が視界にはいってきた…今回は徳俵の軽率な行動によってその看板も泥だらけでどこのなんの看板であるかも認識できないような事態になっているはずである。
店に到着し、徳俵の到着の気配を察したその販売店のすべての従業員が表にでてきた。